特に、著名人、アスリート、インフルエンサーの方は、容姿、性格、能力などについて誹謗中傷の被害を受けるケースが多いです。
この記事では、「ブス」や「頭悪い」と投稿された場合に削除できるのかについて解説します。
目次
「ブス」や「頭悪い」と投稿された場合
「ブス」や「頭悪い」と誹謗中傷されると、プライド(名誉感情)が傷つくことが多いでしょう。
しかも、Xや掲示板では、集団で誹謗中傷が行われることが多いです。悪質性が高いです。
そのため「ブス」や「頭悪い」といった投稿は、名誉感情の侵害を理由に削除できる可能性があります。
名誉感情の権利侵害が認定される基準
名誉感情が権利侵害となるかは、次の基準で判断されます。(最高裁判所第三小法廷平成22年 4月13日判決参照)
- 名誉感情の侵害があること
- 社会通念上許される限度を超える侮辱行為であること
裁判所はどのように判断するのか
「社会通念」という基準は曖昧なことから、権利侵害にあたる名誉感情の侵害かどうかを判断することは難しいです。
過去の裁判例を分析しつつ、社会通念上許容される限度を超えるか判断する必要があります。
ここからは「ブス」や「頭悪い」といった投稿が実際の裁判でどのように判断されたかを解説します。
「頭悪いとは思ってたけど少し足りないんじゃね?」と掲示板で侮辱した行為に名誉感情の侵害が認定された事案
(令和 4年 3月31日東京地方裁判所判決)
1. 事案の内容
- 被害者は、アカウント名「B」、ユーザー名「@△△」というTwitterアカウントを保有しており、「ツイキャス」では「C」というチャンネル名で配信活動等を行っている。
- 被害者が自身のフォロワーからのリプライに一定の内容を返信したことについて、電子掲示板で次のような書込みが行われた。
「リプ返もキモすぎるだろwww」
「頭悪いとは思ってたけど少し足りないんじゃね?」
2. 被害者側の主張
- 「リプ返もキモすぎるだろwww」と述べるものであるところ、「キモすぎる」という記載は、被害者が生理的嫌悪感を抱かせる人物であるとの人格的評価を端的に記載しているものといえ、笑いを意味するネットスラングである「w」を語尾に複数付加することで、さらに強度に被害者を嘲るものといえ、このような侮辱表現が、通常の社会生活において投げかけられることがめったにないような強度なものであることは明らかである。
- 「頭悪いとは思ってたけど少し足りないんじゃね?」という表現は、要するに、被害者の思考能力等が単に「頭悪い」という表現では足りないほどに欠如しているという趣旨である。このような侮辱表現が、通常の社会生活において投げかけられることがめったにないような強度なものであることは明らかである。
- したがって、社会通念上許される限度を超えて被害者の名誉感情を不法に侵害するものといえる。
3. プロバイダ側の主張
- 抽象的な記載にとどまるものであり、直ちに社会通念上許容される限度を超える侮辱行為であるとはいい難い。
- 権利侵害の明白性が認められるためには、違法性阻却事由をうかがわせるような事情がないことまで立証する必要があるところ、違法性阻却事由が不存在であることの立証がされているとはいえない。
4. 裁判所の判断
- 「頭悪いとは思ってたけど少し足りないんじゃね?」との記載があるところ、同記載は、被害者の頭が少し足りないという趣旨の記載と解するのが相当である。「頭が足りない」という表現は一種の差別的表現であることは明らかであるから、通常人が「頭が少し足りない」と評価されることは、特段の事情がない限り、社会通念上許容される限度を超えた侮辱に当たる。
- プロバイダ側は、名誉感情侵害についても違法性阻却事由の不存在の立証がない旨を主張するが、名誉感情侵害については正当行為などの一般的な違法性阻却事由は存在し得るとしても、名誉権侵害のような特有の違法性阻却事由は観念し難いところ、本件全証拠によっても一般的な違法性阻却事由の存在はうかがわれない。
5. 弁護士が解説!判断のポイント
本件は配信者が掲示板で複数誹謗中傷の書込み被害を受けた事例です。解説の便宜上一部しか記載をしておりませんが、他にも複数争点がありました。
名誉感情の侵害の事案では次の点が争点となることが多いです。
- ① 投稿内容から被害者を特定できる必要があるか(同定可能性といわれます)
- ② 投稿内容が社会通念上許される限度を超える侮辱行為か
① 投稿内容から被害者を特定できる必要があるか
名誉感情の侵害では、投稿内容から被害者を客観的に特定できる必要はないです。
名誉毀損のケースと異なり、客観的な評価というよりも、被害者の主観的な評価、プライドの問題なので、被害者が自分になされた投稿であると理解できれば名誉感情の侵害は成立します。
この裁判事例でも同様の判断をしています。
② 投稿内容が社会通念上許される限度を超える侮辱行為か
「頭悪いとは思ってたけど少し足りないんじゃね?」という表現について、裁判所は「社会通念上許容される限度を超えた侮辱に当たる」と判断しました。
「頭が足りない」という表現は一種の差別的表現であることは明らかと判断していることを踏まえると、単に「頭が悪い」だけの記載では社会通念上許容される限度を超えるとまでは認定されなかった可能性もあります。
「リプ返もキモすぎるだろwww」という部分については裁判所の方で特に触れていないです。この表現については、社会通念上許容される限度を超えた侮辱とは認定しなかったといえます。
「ブスなヤツ」と掲示板で侮辱した行為に名誉感情の侵害が認定された事案
(令和 3年 2月2日東京地方裁判所判決)
1. 事案の内容
- 被害者は議員の妻
- 電子掲示板で「ブスなヤツ」「学生時代生意気な女やった」と侮辱された事案
2. 被害者側の主張
- 「ブスなヤツ」、「生意気な女」と口汚く罵るものであるから、単に主観的な意見を述べるといった域にとどまらず、被害者個人への人格的攻撃に及んでおり、被害者に対する侮蔑であるとともに、その社会的評価を低下させることは明らかである。
- 本件投稿は、被害者に対する侮辱、又は名誉棄損に当たる。
3. サイト側の主張
- 侮辱が問題となる文言は「ブス」及び「生意気」といった表現のみであり、特段の根拠を示すこともなく、本件発信者の意見ないし感想として述べられている上、現在ではなく、過去の「学生時代」のことについて述べているにすぎない。
- 社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが明白であるということはできない。
- 積極的に加害を及ぼすような内容ではなく、穏当な表現にとどまっていて、意見ないし感想の範囲を逸脱して人身攻撃を行うものとまではいえない。
4. 裁判所の判断
- 「学生時代生意気な女やった」との記載が、被害者の社会的評価を低下させ、また、人格に対する否定的価値判断として許される限度を超える侮辱行為に当たるとはいえない。
- 「ブスなヤツ」との表現については、被害者の容姿について否定的価値判断を述べるものであって、その社会的評価を低下させ、社会通念上許される限度を超える侮辱行為には該当すると認められる。
5. 弁護士が解説!判断のポイント
(1) 問題となった権利
この事例では、大きく分けて次の2つの権利侵害が問題となっています。
- ① 誹謗中傷が名誉毀損にあたるか
- ② 誹謗中傷が名誉感情の侵害にあたるか
(2) 意見論評型の名誉毀損について
①名誉毀損について、個人の感想・意見を述べたものであっても、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したもの」は名誉毀損として違法となります。
人身攻撃に及ぶというには、かなりひどい内容であることが必要です。たとえば「クソ中のクソ」、「人としてクズ」などの表現が考えられます。意見論評を名誉毀損と主張するのはハードルが高いです。
また、名誉毀損は、社会的評価の低下という客観面から被害状況を考えるため、投稿内容から被害者を特定できる必要があります。そのため、侮辱行為があっても、一般の閲覧者が誰を誹謗中傷の対象としているのか分からないときは名誉毀損の成立は難しいです。
本事例では、掲示板の内容から、誹謗中傷の対象者が被害者であることを認定のうえで、「ブスなヤツ」との表現について名誉毀損を認定しています。
(3) 社会通念上許容される限度を超える侮辱行為の事例判断
②名誉感情について、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為は、名誉感情の侵害として削除できる可能性があります。
本事例では、次のように判断しました。
- 「学生時代生意気な女やった」との記載は許される限度を超える侮辱行為に当たらない。
- 「ブスなヤツ」との表現は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為には該当する。
まとめ:「ブス」や「頭悪い」とのクチコミは削除できる可能性あり
- 著名人、アスリート、インフルエンサーの方は、誹謗中傷の被害を受けることが多いです。
- 「ブス」や「頭悪い」とのクチコミは削除できる可能性があります。
- 削除できるかは投稿の文脈や表現方法を確認のうえで過去の削除の相場観に照らして慎重に判断する必要があります。
インターネットでの侮辱行為でお悩みの方は、この分野に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。