「Googleマップに『医療の腕がないヤブ医者です』と書かれた」
「SNSで自社製品に対し『こんなの買う奴は馬鹿』と投稿された」
「匿名掲示板で役員個人が『無能』『キモい』などと罵倒されている」
このような誹謗中傷や暴言を受けてお困りではありませんか。
悪質な誹謗中傷は侮辱罪にあたる可能性があります。特に、2022年7月の刑法改正による侮辱罪の厳罰化で、改正前に比べて量刑は重くなっています。
この記事では、侮辱罪に焦点を当て、企業やクリニックの担当者様が知っておくべき法律の知識、実際の有罪事例と処理状況、そして企業の対抗措置までを誹謗中傷問題に詳しい弁護士が徹底的に解説します。
目次
- 1 1. 結論:侮辱罪の厳罰化で量刑は大幅に引き上げられた!ネットの暴言は「罰金」「拘禁刑」もあり得る犯罪に!
- 2 2. 侮辱罪の厳罰化|法定刑の変更点と3つの実務的影響を解説
- 3 3. 罰金額はいくら?リアルな量刑相場【侮辱罪の事件処理状況から分析】
- 4 4. 侮辱罪の処理状況のリアル【侮辱罪の事件処理状況から分析】
- 5 5. 犯行から事件処理までの期間【侮辱罪の事件処理状況から分析】
- 6 6. どのような表現が侮辱罪として処罰されているのか
- 7 7. 企業が侮辱罪の被害に遭った場合の法的対抗策|刑事告訴と損害賠償
- 8 8. まとめ:侮辱罪の量刑は重くなりました。悪質な投稿については弁護士と連携し毅然とした対応を
1. 結論:侮辱罪の厳罰化で量刑は大幅に引き上げられた!ネットの暴言は「罰金」「拘禁刑」もあり得る犯罪に!
これまで比較的軽い罪とされてきた侮辱罪は、2022年7月7日に施行された改正刑法で厳罰化されました。具体的には、改正前にはなかった罰金刑が追加されて、1年以下の拘禁刑が科される可能性があります。
これは、近時インターネット上での誹謗中傷が社会問題化していることがきっかけです。インターネットでの誹謗中傷は、影響が極めて大きく従来の侮辱罪の量刑では適切ではなかったということです。

2. 侮辱罪の厳罰化|法定刑の変更点と3つの実務的影響を解説
今回の厳罰化は、法律の条文が変わっただけでなく、実際の捜査や手続きにも大きな影響を与えています。企業担当者が知っておくべき3つのポイントを解説します。
2.1 【比較】改正前後の法定刑|「罰金」「拘禁刑」追加のインパクト
侮辱罪の法定刑がどう変わったのか、具体的に見てみましょう。
【改正前】
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
【改正後】
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
最も大きな違いは、新たに「拘禁刑」と「罰金」が追加された点です。
- 「科料」が1万円未満の金銭罰であるのに対し、「罰金」は1万円以上のより重い刑罰です。
- 「拘留」は1日以上30日未満とし、刑事施設に拘置することです。
- 「拘禁刑」とは1月以上刑務所などに収容されて服役する刑罰です。従来は懲役・禁固と表現されていた刑が一本化されて「拘禁刑」となっています。
以下が法定刑の変更に関する比較表です。
| 区分 | 改正前(~2022年) | 改正後(2022年7月7日~) |
|---|---|---|
| 法定刑 | 拘留 科料 |
拘禁刑 罰金 拘留 科料 |
| 自由刑の種類 | 拘留のみ | 拘禁刑 拘留 |
| 自由刑の期間 | 1日以上30日未満 |
拘禁刑 拘留 |
| 金銭刑の種類 | 科料のみ | 罰金 科料 |
| 金額の範囲 | 科料 1,000円以上10,000円未満 |
罰金 科料 |
2.2 影響①:公訴時効が1年から3年に延長された
法定刑が重くなったことで、公訴時効(犯罪が終わった時から一定期間が経過すると起訴できなくなる制度)が1年から3年に延長されました。
250条2項
時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
6 長期五年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪については3年
7 拘留又は科料に当たる罪については1年
これにより、過去の投稿であっても、すぐに対応が難しい場合でも、諦めずに犯人を訴追できる期間が長くなりました。
私はこれまで多数の刑事告訴を行ってきましたが、この改正の影響は大きいと感じます。
投稿者を特定後に、警察に刑事告訴を行い、受理された後に送検されて起訴・不起訴の判断に至るまでには相当の時間がかかります。
改正前の公訴時効(1年)では厳しい案件であっても、改正後の公訴時効(3年)では対応可能な案件もあります。
公訴時効とは別に侮辱罪の場合は刑事告訴が必要です。告訴期間は犯人を知った時から6か月であることには注意が必要です。刑事告訴の詳しい流れは、下記リンクをご参照ください。
2.3 影響②:逮捕しやすくなった
改正前の侮辱罪の法定刑では、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限り逮捕状による逮捕ができました。
法定刑の引き上げで拘禁刑が追加されたことで、「住居を有しない場合又は正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限り」(刑事訴訟法199条)という逮捕の制限がなくなります。
そのため、改正前に比べると逮捕がしやすい環境になっています。
2.4 影響③:そそのかしたり、手伝った人まで処罰される可能性
改正前までは、侮辱罪に該当するような投稿をそそのかしたり(教唆犯)、投稿が容易にできるように手伝った人(幇助犯)を処罰することはできませんでした(刑法64条)。
しかし、法定刑の引き上げに伴い、その制限がなくなり、投稿をそそのかしたり、投稿が容易にできるように手伝った人も処罰対象となりました。
3. 罰金額はいくら?リアルな量刑相場【侮辱罪の事件処理状況から分析】
では、実際にどの程度の投稿で、どれくらいの量刑が科されているのでしょうか。法務省が公開している「侮辱罪の事件処理状況」から、リアルな量刑の相場を分析します。
3.1 インターネット上の誹謗中傷の場合
インターネット上の誹謗中傷は、その拡散性や記録が残り続ける悪質性から、罰金刑となるケースが多く見られます。
侮辱罪の科刑状況をみると、71%が罰金10万円以上20万円未満のレンジです。その次に多いのは、科料(1000円以上1万円未満)で18%を占めています。
3.2 インターネット以外での誹謗中傷の場合(対面での暴言など)
インターネット以外での侮辱罪の量刑はインターネット事案と大きく異なります。
科料(1000円以上1万円未満)が53%を占めており、罰金10万円以上20万円未満のレンジが43%という割合です。
4. 侮辱罪の処理状況のリアル【侮辱罪の事件処理状況から分析】
侮辱罪として刑事告訴が行われた場合、捜査を経て事件は検察官に送られます。検察官は捜査の結果を踏まえ、被疑者をどのように処分するかを決定します。
その処分として考えられるのは、主に以下の4つです。
① 不起訴
検察官が裁判にかけること(起訴)をしないと決めることです。
② 略式命令請求
公開された法廷での正式な裁判(公判)を開かずに、書類上の審査だけで罰金または科料を科すよう裁判所に求める手続きです。
③ 公判請求
検察官が裁判所に対し、公開の法廷で正式な裁判を開くよう求めることです。
④ 家庭裁判所送致
事件の被疑者が20歳未満の少年であった場合に行われる手続きです。
法務省の統計によると、侮辱罪の処理状況は「インターネット上の事案」と「それ以外の事案」で大きく傾向が異なります。
4.1 インターネット上の誹謗中傷の場合
SNSや掲示板など、インターネット上での侮辱事件が検察官によって処理された場合の内訳は以下の通りです。
- 不起訴:54%
- 略式命令請求:34%
- 公判請求:2%
- 家庭裁判所送致:10%
半数以上は不起訴となっていることがわかります。次に多いのは、略式命令の請求(34%)で公判請求されている割合はたった2%です。
インターネット上の侮辱の場合は、多くの事例で不起訴となっており、起訴されるとしてもほとんどの事例で略式命令請求によって処理されていることがわかります。
また、家庭裁判所送致が10%を占めている点も注目すべき点です。つまり、インターネット上の誹謗中傷では、加害者が未成年であるケースが決して少なくないことを示しています。
4.2 インターネット以外での誹謗中傷の場合(対面での暴言など)
対面での暴言など、インターネットを介さない侮辱事件が検察官によって処理された場合の内訳は以下の通りです。
- 不起訴:79%
- 略式命令請求:19%
- 公判請求:1%
- 家庭裁判所送致:1%
約8割が不起訴となっており、インターネット上の事案と比較して起訴に至る割合が低いことがわかります。
証拠の確保が難しいことや、インターネット上の侮辱の方がより影響が大きくなるケースが多いことなどが、理由として考えられます。
被疑者が少年であるケースは1%にとどまり、加害者の年齢層もインターネット事案とは異なる傾向が見られます。
5. 犯行から事件処理までの期間【侮辱罪の事件処理状況から分析】
侮辱罪の犯行から事件処理までの期間は「インターネット上の事案」と「それ以外の事案」で傾向が異なります。
5.1 インターネット上の誹謗中傷の場合
インターネット上の侮辱事案は、事件処理に長い時間がかかる傾向があります。
具体的には以下のとおりです。
- 1年超~2年以内の処理期間の事案が合計で40%
- 1年以内(6か月以内を含む)の処理期間の事案は合計で54%
主な理由として、犯人の特定に時間がかかる点が挙げられます。匿名での投稿が多いため、プロバイダなどに対して発信者情報開示請求の手続きが必要となります。この法的な手続きに数か月以上の時間を要することが多いため、事件処理全体の期間を押し上げる大きな要因となっていると分析します。
5.2 インターネット以外での誹謗中傷の場合(対面での暴言など)
対面での暴言など、インターネットを介さない事案は比較的スピーディーに処理されています。
約8割(79%)が1年以内に処理を終えています。
最も多いのが「6か月以内」で42%を占めており、短期間で解決に至っている事例が多いことがわかります。
インターネット以外での誹謗中傷の場合は、加害者と被害者が顔見知りであったり、その場で身元がわかっていたりするなど、犯人特定のプロセスが不要なケースが多いことが早期解決要因だと分析します。

6. どのような表現が侮辱罪として処罰されているのか
どのような表現が侮辱罪の対象となっているのかを事例集を踏まえて説明します。侮辱表現は以下のとおり刑事罰の対象となる可能性があります。
6.1 口コミ欄に「ヤブです」などと記載した事例
口コミ欄に、「薬のチョイスなど、全然下手で、ハッキリ言って ヤブです。」「待ち時間も お父さんの時より 凄くかかります。もっと 勉強して下さい。」などと掲載した(事例集No27)。
略式命令請求で科料9,000円となりました。
6.2 口コミ欄に複数回「命の危険性あり」などと記載した事例
4回にわたり、検索サイト上の被害者勤務先の口コミ欄に、「この病院、最低です。〇〇(駅名)〇〇(被害者勤務先名)。命の危険性あり」などと投稿した(事例集No84)。
略式命令請求で罰金200,000円となりました。
6.3 電子掲示板に「クソババア」「あのメガネキモいインキャ」などと記載した事例
インターネット上の掲示板の「評判の悪い会社」と題するスレッドに、「〇〇(被害者の名字)、〇〇(被害者の旧姓) クソババアはやばかった嘘ば!ばら撒く糞人間!」「あーあのメガネキモいインキャね!合わせるのめんどくさい人よね!」などと掲載した(事例集No141)。
略式命令請求で罰金100,000円となりました。
7. 企業が侮辱罪の被害に遭った場合の法的対抗策|刑事告訴と損害賠償
7.1 開示手続|手続きの流れと弁護士の役割
投稿者が匿名の場合、まず相手を特定しなければなりません。そのための手続きが発信者情報開示請求です。
① サイト管理者へのIPアドレス開示請求
まず、投稿がなされたサイトの運営者に対し、投稿者のIPアドレス(ネット上の住所)などの開示を求めます。
② プロバイダへの契約者情報開示請求
次に、開示されたIPアドレスから判明したプロバイダ(携帯キャリアやネット回線業者)に対し、そのIPアドレスを契約している人物の氏名や住所の開示を求める裁判を起こします。
弁護士は、これらの複雑な法的手続きを代理人として迅速に進め、投稿者を特定します。
上記はIPアドレスから投稿者を特定する場合の流れです。
サイト管理者が投稿者情報(氏名・住所・電話番号など)を保有している場合は、IPアドレスの開示ではなく直接投稿者情報の開示を求める方法もあります。詳細については下記リンクのとおりです。
7.2 刑事告訴|手続きの流れと弁護士の役割
侮辱罪で処罰を求めるためには、刑事告訴が必要です。
刑事告訴は投稿者を知ってから6か月以内にする必要があります。具体的な流れは、インターネット上の誹謗中傷の場合は、次のとおり進むことが多いです。
弁護士は、投稿者の特定、告訴状の案の作成、警察への説明や捜査への協力など、告訴が適切に受理され、手続きが進むようサポートします。
7.3 民事での損害賠償請求|慰謝料の相場と請求の流れ
投稿によって受けた精神的苦痛や、投稿者の調査にかかった費用などを金銭で賠償してもらうのが損害賠償請求です。
投稿者を特定後に、内容証明郵便などで損害賠償を請求します。相手が支払いに応じない場合は、民事訴訟を提起します。
詳細な請求項目や相場観についてはこちらの記事で解説していますので参考にしてください。
8. まとめ:侮辱罪の量刑は重くなりました。悪質な投稿については弁護士と連携し毅然とした対応を
侮辱罪の厳罰化は、ネット上の暴言に対する社会の姿勢が大きく変わったことを示しています。理不尽な侮辱行為を繰り返されている場合は、刑事告訴や損害賠償請求などの法的措置が効果的です。
しかし、その手続きは複雑で専門的な知識を要します。侮辱行為にお悩みの場合は、決して一人で抱え込まず、誹謗中傷問題に詳しい弁護士へ速やかにご相談ください。
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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。




