悪質な投稿者への損害賠償請求は可能です。慰謝料の相場は30~50万円が標準です。投稿者を特定する調査費用(発信者情報開示費用)や弁護士費用も請求できます。
この記事ではインターネット上の誹謗中傷でお悩みの皆様にむけて、悪質な投稿者に損害賠償請求するときのポイントと金額の相場を、過去の事例を踏まえて解説します。
目次
損害賠償の6つのポイント
悪質な投稿者に損害賠償するためのポイントは次の6つです。権利侵害行為の該当性や損害の範囲が争点となるケースが多いです。
- 投稿者が特定できていること
- 投稿が権利侵害行為に該当すること
(例:名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー権侵害、肖像権侵害) - 投稿者が故意又は過失によって権利侵害行為を行っていること
- 損害が発生したこと
- 権利侵害行為と損害の発生との間に因果関係があること
- 違法性阻却事由がないこと
損害賠償の相場
では、悪質な投稿者への損害賠償の相場はどの位でしょうか?
裁判の場合の標準的な相場は次の通りです。
慰謝料
30~50万円が標準です。
投稿者を特定する費用(発信者情報開示費用)
実際に発生した経費が賠償対象となることが多いです。
投稿者を特定するための弁護士費用も経費に含まれます。
弁護士費用相当額
損害額の10%が多いです。たとえば、慰謝料50万円のときは弁護士費用は5万円が多いです。
実際の弁護士費用と相手に請求できる弁護士費用は異なりますので要注意です。
悪質な投稿者への損害賠償の相場(裁判の場合)
請求項目 | 金額 |
---|---|
慰謝料 | 30~50万円 |
投稿者を特定する費用 (発信者情報開示費用) |
実費の全部又は一部 |
弁護士費用相当額 | 損害額の10% |
注 個別事案により異なります。
過去の損害賠償の裁判事例
では、過去の損害賠償の裁判事例で相場を具体的にみていきましょう。
名誉感情の侵害を理由とした損害賠償の事案
事案の概要
- A会社の専務取締役であった者(元専務取締役)が誹謗中傷の対象となった事案
- 営業秘密漏洩の刑事事件で、元専務取締役は無罪判決が出た。
- ヤフーニュースでもその旨が報じられた。
- ヤフーニュースのコメント欄に、「バカボン…どれだけ人を踏み台にして上がっていたか…上告」などとコメントがされる。
- 元専務取締役が、コメントの投稿者を調査したところ、A会社の元従業員であることが判明。
- 元専務取締役が、名誉感情侵害(侮辱)を理由に、投稿者に対して損害賠償請求を行った。
- 請求金額は、慰謝料100万円、発信者情報開示に要した費用55万円、刑事告訴に要した費用33万円、訴訟に関する弁護士費用10万円(合計198万円の請求)。(名古屋地方裁判所令和5年3月30日判決)
裁判所の判断
- 権利侵害行為(名誉感情侵害):認める
- 慰謝料:30万円
- 発信者情報の開示に要した費用:55万円
- 刑事告訴に要した費用:認めない。
- 訴訟に関する弁護士費用:8万5,000円
- 合計 93万5,000円
弁護士コメント
権利侵害行為について
名誉感情の侵害を理由とする損害賠償請求の事案です。
名誉感情とは、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価のことです。
名誉感情の侵害とは、その主観的評価を侵害することを言います。名誉毀損の際に問題となる「社会的評価の低下」までは必要ありません。客観的に社会的評価が低下するような投稿でなくても、自尊心を傷つけるような投稿であれば、名誉感情の侵害を理由に損害賠償が認められる可能性があります。
名誉毀損の場合は、具体的な事実の摘示の有無が問題となります。名誉感情の侵害の場合は問題になりません。
名誉感情の侵害は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為か否かで判断します。本事例では、社会通念上許容される限度を超えていると判断しました。
なお、名誉感情は個人の主観的な評価から考えます。そのため、法人は名誉感情侵害を理由に権利侵害を主張することはできないと考えられています。
慰謝料
慰謝料は、精神的な損害に関する補償です。
裁判所は、慰謝料を考えるにあたって、情報の伝播性、投稿内容、投稿によって侵害された権利の内容、原告が本件投稿によって被った不利益の程度、精神的苦痛の大きさなどを考慮しています。
本事例は、コメント後、3日程度でコメントが削除されています。しかし、裁判所は「インターネットを通じて広く伝播したことは容易に推察される」と認定しています。情報の伝播性自体は小さくないと判断しています。
慰謝料100万円を請求していましたが、結果的には30万円の範囲内でしか認められませんでした。
発信者情報の開示に要した費用(調査費用)
損害賠償請求のためには投稿者を特定しないといけません。
調査費用は、特定のために必要な費用であり、本事例では全額損害と認めました。ただし、すべての事案で調査費用の全額を認めるとは限りません。不法行為と相当因果関係があると判断した範囲に限り、裁判所は調査費用を損害として認めています。
刑事告訴に要した費用
刑事告訴に関する費用は、民事上の損害賠償の前提として必要不可欠な手続きではありません。そのため、刑事告訴の費用を損害と認めませんでした。
訴訟に関する弁護士費用
訴訟に関する弁護士費用は、損害額の1割相当を認めるのが通例です。
裁判所が認定した損害額は合計85万でした。そのため、1割の8万5,000円を弁護士費用と認めました。実費の弁護士費用が全額補償とはならないので注意が必要です。
なお、不法行為に基づく損害賠償請求以外の場合、弁護士費用の請求はできないことが多いです。
名誉毀損を理由にした賠償請求の事案
事案の概要
- X1会社(飲食店の経営等を行う会社)、会社の代表取締役X2及びその兄弟X3が誹謗中傷の対象となった事案
- 掲示板サイトである爆サイに次のような書き込みがなされた。
「在日朝鮮人の保険金詐欺師兄弟の甲山X2と甲山X3、▲▲とかいう居酒屋チェーンと○○という店をフロント企業を出して日本人から金を巻き上げている最低な奴」 - 投稿者を調査した結果、Yが契約している端末から投稿されたことが判明。
- XらはYに対して、名誉毀損を理由に損害賠償請求を行ったが、Yは投稿自体を否定。
- 請求額は、X1会社の慰謝料150万円、X2の慰謝料100万円、X3の慰謝料100万円、発信者情報開示費用73万4,600円、弁護士費用相当額35万円(合計458万4,600円の請求)。(千葉地方裁判所木更津支部令和4年12月15日判決)
裁判所の判決
- 本件投稿を行ったのはY。理由としては、投稿はYが契約する端末機器からであり、XらとYの間にはトラブルがあり、投稿を行う動機もあったことから、Yを投稿者と推認できる。
- 爆サイの書き込みは、X1会社、X2及びX3の名誉を毀損する。
- X1会社の損害額:無形損害50万円
- X2及びX3の精神的損害:各30万円
- 発信者情報開示費用:73万4600円
- 弁護士費用はX1について5万円、X2及びX3については各3万円
- 合計:194万4600円
弁護士コメント
投稿者の特定
発信者情報開示で投稿された端末機器の契約者名がYであることまで判明しました。しかし、Yは自らの投稿を否定して、第三者が投稿した可能性を主張しました。
もっとも、通常端末機器の契約者が端末を通常は操作しています。そのため、第三者が投稿したという主張は、特別な事情がない限り認められません。
本事例でも、Yが契約する端末機器から投稿されていること、YとXらの間にトラブルがあり投稿の動機があることをもって投稿者と推認しています。
名誉毀損の対象者(被害者)かの判断
書込みには、直接会社名の記載はありません。そのため、X1会社を対象とした書き込みかは一見わからないようにも思います。
しかし、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして、X2が「▲▲」に字形が類似する「△△」との名称の居酒屋や、「○○」との名称の居酒屋を経営していることなどを理由に、X1会社も対象にした書き込みと判断しました。
裁判所はある程度柔軟な読み方をして、書き込みの対象者(被害者)を判断します。
慰謝料
X1会社は法人です。法人の場合、慰謝料は認められません。法人は精神的な苦痛が考えられないためです。しかし、無形損害は請求可能です。本事例でも無形損害50万円を認めました。
X2及びX3の慰謝料は各30万円を認めました。理由は次のとおりです。
「本件投稿は、本件掲示板を閲覧した不特定多数の者に対し、原告X2及び原告X3が保険金詐欺という犯罪行為を行っており、暴力団とも関わりがあるとの印象を与えかねない悪質なものである。他方で、・・・その内容は抽象的で、原告X2及び原告X3の社会的評価の低下の程度は大きいとはいえない。」
発信者情報の開示に要した費用(調査費用)
発信者情報の開示に要した費用の全額73万4,600円が相当因果関係のある損害と認定されています。
弁護士費用
裁判所が認定した慰謝料額は合計110万円でした。そのため、1割の11万円を弁護士費用と認めました。
プライバシー権侵害を理由にした賠償請求の事案
事案の概要
- ホステスXが誹謗中傷の対象となった。
- 掲示板サイトであるホストラブに次のような書き込みがなされた。
投稿1:「○○とハーフって自慢できない国のこといつも言ってたやん笑」
投稿2:「○日 ○世」、「帰○ 済み」
投稿3:「そ、れ~わかる~3世でも異国の血は争えないよな~」
投稿4:「可愛いと思うのは親ぐらいの顔面レベル」 - Xは、本件投稿1~3が、在日外国人とりわけ在日韓国/朝鮮人の人々に対する差別が根強く残っていること、自ら血統等を積極的に公表等しているわけではないこと等からすれば、本件投稿1から3はプライバシー権侵害にあたる、本件投稿4は名誉感情侵害にあたると主張。
- 慰謝料300万円、調査費用77万円、弁護士費用37万7,000円を請求した。(合計414万7000円の請求)(東京地方裁判所令和 4年 6月23日判決)
裁判所の判決
- 本件投稿1から3は、原告のプライバシー権を侵害して不法行為が成立する。
- 本件投稿4は名誉感情を侵害して不法行為が成立する。
- 慰謝料は、本件投稿1から3までを中心に評価して、30万円とする。
- 不法行為の内容・違法性の程度に加え、慰謝料額との均衡などを考慮して、慰謝料額の半額である15万円の限度で、弁護士費用(発信者情報開示請求等の手続に要した費用を含む。)が被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認定。
弁護士コメント
プライバシー権侵害
他人にみだりに知られたくない個人情報はプライバシー権の保護対象となりえます。
プライバシーに属する事実かどうかは、次の要素を加味して考えます。
- 私生活上の事実又はそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること(私事性)
- 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること(秘匿性)
- 一般の人々に未だ知られていない事柄であること(非公知性)
そのうえで、プライバシー権を侵害するかは、事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越するかどうかで判断します。
本事例でも次のように判断してプライバシー権侵害を認定しました。
「原告は、原告の尊属が外国籍であり、日本に帰化したことについて、当該情報の正誤に関わらず、公表されないことにつき法的保護に値する利益を有していると認められる。
他方において、被告が、これを公表したことを正当とする理由や必要性があったとする主張立証はなく、他の違法性阻却事由又は責任阻却事由も認められない。
以上によれば、本件投稿1から3までについては、原告のプライバシー権を侵害するものとして、不法行為が成立する。」
プライバシー権侵害の慰謝料及び弁護士費用
裁判所は、プライバシー権侵害の部分が慰謝料の中心的評価と考えて、本件投稿1から3までを中心に評価して、30万円と認定しました。
また、発信者情報開示費用を含む弁護士費用を合わせて、慰謝料の半額の15万円までと認定しました。
被害者は、調査費用だけで77万円の実費がかかっています。合計45万円の損害賠償金では費用分も賄えません。
過去の裁判例を踏まえた金額の相場のまとめ
名誉感情侵害、名誉毀損、プライバシー権侵害を理由とした損害賠償請求の裁判例を紹介しました。
慰謝料の金額は事例によって異なりますので一概には言えませんが、30~50万円程度の事例が多いです。100万円を超えるような認定事例はあまり多くありません。もっとも、慰謝料は個別事案により金額が大きく変わることもあります。
投稿者を特定するための調査費用(発信者情報開示費用)は慰謝料とは別に請求できます。調査費用の全額が損害として認定される場合と、調査費用の一部しか認定されない場合があります。
弁護士費用は損害額の10%が多いです。もっとも、個別事案により10%を超える損害が認定されることもあります。ただし、実際の弁護士費用と相手に請求できる弁護士費用は異なりますので要注意です。
悪質な投稿者への損害賠償の相場(裁判の場合)
請求項目 | 金額 |
---|---|
慰謝料 | 30~50万円 |
投稿者を特定する費用 (発信者情報開示費用) |
実費の全部又は一部 |
弁護士費用相当額 | 損害額の10% |
注 個別事案により異なります。
弁護士に依頼するメリット
損害賠償請求を一人でするのは難しいです。
どのような権利侵害を根拠にいくらの損害額を算定するかなど、交渉や裁判を円滑に進めるには弁護士のサポートが必要です。
よつば総合法律事務所のサポート内容
誹謗中傷の損害賠償請求に詳しい弁護士が在籍しています。そのため、投稿者の特定、損害賠償請求までスムーズに進めることができます。
ご相談はZOOMで全国対応しています。初回相談は無料です。
誹謗中傷の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談したい企業様は、まずは無料相談をご利用ください。
まとめ:悪質な投稿者への損害賠償請求
悪質な投稿者には損害賠償請求ができます。
損害賠償請求の理由には、名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー権侵害などがあります。
裁判の場合の相場は次の通りです。交渉の場合は裁判の相場を踏まえた交渉を行います。
悪質な投稿者への損害賠償の相場(裁判の場合)
請求項目 | 金額 |
---|---|
慰謝料 | 30~50万円 |
投稿者を特定する費用 (発信者情報開示費用) |
実費の全部又は一部 |
弁護士費用相当額 | 損害額の10% |
注 個別事案により異なります。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。