転職サイトに「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」と投稿されてしまうと、採用に影響があります。

転職活動をしている求職者は、事前にインターネットで口コミを確認する方が多いです。不当な口コミは削除請求しましょう。

この記事では「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミを削除できるのかについて弁護士が解説します。

目次

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミが及ぼす影響

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」という口コミがあると悪い印象を抱く求職者が多いです。もちろん、採用への悪影響もありえます。

転職活動では、インターネットで求人情報・企業情報を検索することが一般的となっています。

「求職者の動向・意識調査 2023」(2023年11月株式会社リクルートジョブズリサーチセンター)の調査結果では、次のような結果が出ています。

仕事探しで利用した求人情報源は?

  • 求人情報サイト(携帯・スマホ)37.2%
  • ハローワーク 29.0%
  • 求人検索エンジン 27.0%
  • 求人情報サイト(パソコン) 26.6%
求職者の多くが、求人情報サイトと検索エンジンを使って検索していることがわかります。企業としても、インターネット上の口コミに配慮する必要があります。

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との投稿は削除できる可能性があります。

そこで、どのようなケースで投稿が削除できるかを解説します。

人事評価に対する不満の意味で書かれている場合

人によって読み方や理解の仕方はさまざまです。

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミは、人事評価により、降格・減給された者が不満の意味で記載したと理解することも可能です。

このように理解すると、単に投稿者が意見や論評をしているに過ぎないので削除は難しいです。

恣意的な降格・減給により不利益を受けたという意味で書かれている場合

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミは恣意的な降格・減給により不利益を受けたという意味で理解することも可能です。

代表者や上司の個人的な評価で恣意的に降格や減給されたかという事実は、証拠によって真実かどうか判断可能です。単に意見論評とはいえません。

投稿内容が真実ではない場合、削除できる可能性があります。

裁判所はどのように判断するのか

「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」という口コミにはいくつかの読み方がありえます。

読み方によって、意見論評か事実の摘示があるのかの判断が分かれます。裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして解釈を行います。

それでは、実際の判断事例をみてみましょう。
(平成29年5月19日東京地方裁判所判決を元にした事例です。)

人事評価・降格に関する口コミについて、名誉毀損が認定された事例

口コミの内容

① 評価基準が明確ではない。
② 上手くアピールして気に入られれば、仕事であまり実績が無くても昇格する。
③ しっかり出来る人も居ますが役職が上がるほど出来る人は少なくなります。
④ 気に入られて昇格した人ほど、1度評価が下がると普通に降格人事があるので注意が必要です。

被害者の主張

閲覧者に対し、人事評価の基準が不明確で、仕事の出来不出来よりも上司にアピールできる者が昇格し、そのため、役職が上がるほど業務遂行能力のある者が少なくなり、一方、評価が下がると簡単に降格人事が行われる会社であるとの印象を与え、被害者の社会的評価を低下させる。

プロバイダ側の主張

①「評価基準が明確ではない」との記載は、何に関する評価基準について述べているのか対象を明示しておらず、一般的な閲覧者において人事評価の基準が不明確であるとの印象を与えるものではない。

②「上手くアピールして気に入られれば、仕事であまり実績が無くても昇格する」との記載は、全く実績がない場合にも昇格できるとは述べておらず、被害者の主張には飛躍があるし、一般的に人事評価が仕事の出来不出来だけではなく熱意や協調といった仕事の実績そのものではない観点も考慮要素とされていることからすれば、この記載は被害者の社会的評価を低下させるものではない。

③「しっかり出来る人も居ますが役職が上がるほど出来る人は少なくなります」との記載は、「出来る」ことの対象が明示されていないため、役職が上がるほど業務遂行能力のある者が少ないとの印象を与えるものではない。

④「気に入られて昇格した人ほど、1度評価が下がると普通に降格人事があるので注意が必要です」との記載は、評価が下がると降格人事があるとの人事評価に関する一般論ともいうべき内容に過ぎず、評価が下がると「簡単に」降格人事が行われる会社であるとの印象を与えるものではない。

裁判所の判断

被害者側とプロバイダ側の主張を踏まえて、裁判所は以下のように判断しました。

【結論:名誉毀損を認定】

理由はおおむね次の内容です。
① 「気に入られて昇格した人ほど、1度評価が下がると普通に降格人事があるので注意が必要です」「昇級や賞与はトップに気に入られればすぐに上がります」「評価基準が明確ではない」「上手くアピールして気に入られれば、仕事であまり実績が無くても昇格する」などの記載を一般の閲覧者がみると、被害者において実際にこのような恣意的な降格が行われていることを摘示しているものであると理解する。

② 被害者において代表者等の個人的な評価により恣意的に降格させられたという事例があるかについては証拠等をもってその存否を決することが可能である。

③ 被害者がそのような恣意的な人事権の行使をする企業であるということは、一般的な本件掲示板利用者の注意と読み方を基準とすると、従業員を不当に扱ったり、コンプライアンスに問題があったりする企業であるなどの負の評価を加えるものであるということができるから、被害者の社会的評価を低下させる。


弁護士が解説!判断のポイント

この事例のポイントは、次の2つです。

  1. 投稿内容の文脈を踏まえて、事実摘示と判断のうえで社会的評価の低下を認定したこと
  2. 事実摘示が真実に反するか具体的に判断していること

1. 投稿内容の文脈を踏まえて、事実摘示と判断のうえで社会的評価の低下を認定したこと

口コミによって企業の名誉が毀損された場合は、名誉毀損を理由に削除請求ができます。

もっとも、社会的評価を低下させる内容すべてが名誉毀損になるわけではありません。個人の感想や意見に過ぎないものは、削除は難しいです。

この事例の投稿は、評価基準が不明確であること、気に入られれば昇格でき、評価が落ちると恣意的に降格させられるといった内容でした。

被害者側は、事実摘示であることを前提に社会的評価の低下を主張していました。

一方、プロバイダ側は、いずれの記載も意見論評であることを前提に社会的評価を低下させるものではないと主張していました。

証拠の存否によって真偽の判断が可能なものは、事実摘示であると理解されています。

裁判所は、被害者・プロバイダの双方の主張を受けて、投稿内容は文脈を踏まえて読むと被害者の恣意的な降格がされた事実を摘示するものであり、名誉毀損にあたると判断しました。

2. 事実摘示が真実に反するか具体的に判断していること

恣意的な降格人事がなされたか否かは、過去の降格事例とその理由を提出すれば真偽の判断が可能です。

この事例でも次のように判断して、事実摘示が真実に反すると認定しています。

本件降格事例のうち、従業員として工場長との役職が外れた部分等については、原告の人事権の行使等による一方的な降格というよりは、家庭の事情や本人の心身の状況等を背景として当該従業員の意向や当該従業員との話合いを経て従前の役職から外れることとなった…代表者等の個人的な評価に基づく恣意的な「降格人事」が行われていたわけではないということができる。

このように、被害者側が提出した証拠資料に基づき、具体的に真実に反しているかを認定している点が参考となります。

まとめ:「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミは削除できる可能性あり

  1. 「評価基準不明確」「人事評価が恣意的である」「不当に降格・減給される」との口コミは削除できる可能性があります。
  2. 削除できるかは文脈を踏まえて一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断します。
  3. 事実摘示か意見論評なのかは、微妙な判断となるケースが多いです。
  4. 立証方針を検討するにも専門的な知識と経験が重要です。
  5. 削除できるかの判断は、誹謗中傷の分野に詳しい弁護士に相談しましょう。
監修者:よつば総合法律事務所 弁護士 辻悠祐
プロフィール

大阪弁護士会所属弁護士。よつば総合法律事務所大阪事務所所長。企業法務チームに所属。インターネット上の誹謗中傷の対応、企業及びクリニックの顧問業務、使用者側の労働問題などを担当している。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

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