このような誹謗中傷のターゲットは、インフルエンサー・芸能人・アスリートなど知名度がある方です。会社役員など責任のある立場の方のこともあります。
知名度や責任のある立場の方が、「〇と〇は不倫関係にある」「〇と〇は肉体関係がある」と誹謗中傷されると、社会的評価への悪影響が大きいです。
この記事では、「不倫」「肉体関係がある」との投稿を削除できるのかについて解説します。
目次
暴露系インフルエンサーによるW不倫の投稿と芸能事務所の対応
シンガーソングライター兼俳優の星野源さんが所属する芸能事務所アミューズの法務部が、滝沢ガレソ氏のXでの投稿に関連して、虚偽の情報の拡散・発言について法的措置を含む対応を検討するとリリースしたことが話題となっています。
対象者を直接名指しなくても名誉毀損は成立する可能性があります。
投稿内容から閲覧者が誰のことを意味しているか分かれば、誹謗中傷によって対象者の社会的評価は低下します。
滝沢ガレソ氏のXの投稿も、かなりの情報量があり、投稿内容から閲覧者が誰のことを意味しているのか推測できる内容でした。
Xは情報の拡散が容易です。虚偽情報が広まれば収集がつかなくなります。そのため、アミューズの法務部が早期に今回のリリースを出したものと思われます。
「不倫」「肉体関係がある」との投稿が及ぼす影響
X(旧Twitter)や掲示板で、「不倫」「肉体関係がある」と投稿されるケースがあります。デマ情報であっても、信じてしまう人もいます。
不貞をしたと勘違いされてしまうと、その人に対する社会的評価は低下します。
インフルエンサー・芸能人・アスリートだと、スポンサーやファンに対する悪影響があります。仕事への影響も発生します。
会社役員だと、取引先や従業員、株主に対して悪影響があります。
法律上も不貞行為は以下のとおり問題があります。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
このように「不倫」「肉体関係がある」と投稿されると、社会的評価への悪影響は大きいです。
裁判所はどのように判断するのか
「不倫」「肉体関係がある」と投稿された場合、名誉毀損を理由に削除請求や損害賠償請求が可能です。
裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして解釈を行います。
週刊誌によって、あたかも夫以外の男性と不倫関係にあるかのような事実を摘示されたとして、女優が名誉毀損を理由に損害賠償請求等をした事例
(参考:平成20年 6月17日東京地方裁判所判決)
被害者側の主張
週刊誌側の主張
- 社会的評価の低下について
記事の内容は、被害者の元カレの情報や、夫以外の男性の運転するバイクの後部座席に同乗したこと、芸能関係者の推測などを記載しているものに過ぎない。そのため、被害者の不倫を想定させるものではなく、社会的な評価は低下しない。
- 違法性阻却事由について
被害者はデビュー以来世間の注目を集めてきただけではなく、被害者の婚姻生活に関する動向は若い世代の女性のモデルケース又はケーススタディの対象として社会の関心事となっている。
本件記事等は、そのような社会の関心事である被害者の離婚問題について報道したものであるから、内容に公共性があり、違法性が阻却される。
裁判所の判断
1. 社会的評価の低下について
- 一般に、週刊誌の記事などで摘示された事実が当該対象者の社会的評価を低下させるか否かは、これを読む一般読者の普通の読み方を基準に判断する。
- 本件記事が掲載されたのは「a誌」という女性週刊誌であって、その読者の多くは女性であろうと考えられるから、主に女性の読者を前提として判断する。
- 本件記事には、「離婚」、「離婚届」、「別居中」、「悩んでいる」、「ある男性と会っていた」、「元カレ」、「彼の腰にギュッと抱きついて」、「彼の腰にしがみついていた」、「当時は毎晩のように遊んでいた」、「当時は結婚も考えていた」、(彼の)「努力している姿を見て連絡をとった」、「彼はいつでも会えるスープのさめない距離にいる」などという、いかにも不倫や男女問題をうかがわせるような言葉や文章が数多く随所に散りばめられている。これを一般の女性読者が普通に読めば、「夫と別居して離婚問題に悩んでいる被害者が元カレと縒りを戻してスープの冷めない距離に住んでいる」などと理解してしまうような記事に仕上げられている。
- 本件広告も、「離婚できない被害者が元カレと一緒にバイクに乗っている」というものであり、被害者がかつて噂のあった男性と縒りを戻して交際しているということを暗示させる。
- 以上より、本件記事等は、一般の読者に対して、被害者が夫との離婚問題の最中にかつて噂のあった男性と縒りを戻して不倫関係にあるかのような印象を与えるものであって、被害者の家庭人としての社会的評価を一定程度低下させるものであることは明らかである。
2. 違法性阻却事由について
- 名誉毀損に対する損害賠償請求訴訟において違法性が阻却されるためには、その事実が「公共の利害に関する事実」であること(公共性)が必要である。
- 「公共の利害に関する事実」とは、多数の人の社会的利害に関係する事実で、しかも、その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものを指す。多数の人が関心を抱いていたとしても、単なる興味や好奇心の対象であるにすぎない事実では足りない。
- 個人の私生活上の言動や家庭生活等を構成する事実で、一般の市民であれば通常は公開されることを望まないような事実については、これを公開することにつき特に公共的な意義が認められる場合や、当該個人の社会的地位や活動状況に照らして、その個人的な情報を公開して広く国民に知らせるのが相当である場合に限って、違法性が阻却されるか検討する。
- 本件記事や本件広告は、いずれも被害者の私的な家庭生活に関する事柄や被害者の過去及び現在の男女関係などに関する事柄を取り上げて報道したものである。そのような私的な事柄は、一般の市民であれば通常は公開されることを望まない事実である。
- 被害者の私的な家庭生活についての興味・関心について、社会的に正当と認められるような事情や社会公共の利益に貢献するといった事情はない。
- よって、「公共の利害に関する事実」には該当せず、違法性阻却事由はない。
弁護士が解説!判断のポイント
この事例のポイントは次の2つです。
- 記事内容全体を踏まえて、不倫の事実摘示を認め、社会的評価の低下を認定したこと
- 女優の私生活は「公共の利害に関する事実」ではなく、違法性阻却事由はないと認定したこと
1. 記事内容全体を踏まえて、不倫の事実摘示を認め、社会的評価の低下を認定したこと
不倫の事実摘示がされると、社会的評価は低下します。たとえば、次のような投稿があると、不倫の事実関係を摘示していると評価するのは容易です。
このような投稿があると、誰がみてもXとYの不倫関係の事実を摘示するものであることは明らかです。
しかし、直接的に不倫の事実関係が書き込まれることは多くないです。たとえば、次のような投稿です。
「女優Xが夫以外の男性の運転するバイクの後部座席に同乗していた」
もっとも、上記投稿の前後で次のような投稿がなされていると、どうでしょうか。
「YはXの元カレ」
「XはYの腰にギュッと抱きついてバイクに乗った」
「彼はいつでも会えるスープのさめない距離にいる」
「車の中で抱き合っている姿をみた」
この事例でも、直接的な肉体関係・不倫関係に言及した記事はなかったようですが、記事内容を全体からみて「被害者が夫との離婚問題の最中にかつて噂のあった男性と縒りを戻して不倫関係にあるかのような印象を与えるものであって、被害者の家庭人としての社会的評価を一定程度低下させるものであることは明らか」として社会的評価の低下を認定しています。
私の経験上も、不倫関係の書き込みは、間接的に不倫関係を推測させるような内容が多い印象です。
間接的に不倫関係を推測させる内容の場合は、その投稿記事のみでなく、全体の文脈でどのように一般読者が読むのかが重要となってきます。
この事例では、記事全体から不倫関係の事実を認定しています。
2. 女優の私生活は「公共の利害に関する事実」ではなく、違法性阻却事由はないと認定したこと
投稿記事が社会的評価を低下させ、名誉毀損に該当しても違法性が阻却される場合があります。
具体的には次のケースです。
- 公共の利害に関する事実であること
- 公益の目的であること
- 投稿内容が真実であること
この事例では、芸能人の私生活、プライベートの内容が「公共の利害に関する事実」なのかが争点となりました。
週刊誌側は「被害者はデビュー以来世間の注目を集めてきただけではなく、被害者の婚姻生活に関する動向は若い世代の女性のモデルケース又はケーススタディの対象として社会の関心事となっている」と主張して、社会の関心事であり、公共の利害に関する事実であると主張しました。
裁判所は、「公共の利害に関する事実」とは、多数の人の社会的利害に関係する事実で、しかも、その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものを指し、多数の人が関心を抱いていたとしても、単なる興味や好奇心の対象であるにすぎない事実では足りないとしました。
そして、女優のプライベートに関する事項については「公共の利害に関する事実」に該当しないと判断しました。
まとめ:「不倫」「肉体関係がある」との投稿は削除できる可能性あり
- 「不倫」「肉体関係がある」との投稿は削除できる可能性があります。
- 不倫関係の事実は直接的に書き込まれるケースばかりではありません。間接的に不倫関係を推測させるような内容も多いです。
- 削除できるかは記事全体の文脈を踏まえて一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断します
- 削除できるかの判断は、過去の裁判例や経験を踏まえての相場観が重要です。この分野に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。