「コミュ障」とのクチコミは削除できることがあります。

掲示板やクチコミに「コミュ障」と投稿されてしまうと、閲覧者に良い印象は与えないです。

また「コミュ障」と侮辱されると深く傷つきます。

この記事では、「コミュ障」とのクチコミを削除できるのかを弁護士が解説します。

目次

「コミュ障」とのクチコミは悪影響

会社の経営者や従業員、クリニックの医師や職員に対して、「コミュ障」という書込みがされることがあります。

たとえば「窓口の職員〇さんはコミュ障」「水曜日を担当している〇医師はコミュ障」「店長はコミュ障」などと掲示板やGoogleクチコミに書込みされるケースです。

コミュ障という書き込みの対象になった方は傷つきます。会社やクリニックに対して申し訳ないという感情を抱く方もいます。もちろん、集客への悪影響もありえます。

コミュ障という投稿は削除できる可能性があります。 そこで、どのようなケースで投稿が削除できるかを解説します。

「コミュニケーションが苦手」という意味で書かれている場合

人によって言葉の読み方や理解の仕方はさまざまです。

コミュ障という言葉は、ネットスラングではコミュニケーションが苦手という意味でも使われています。

そのため、コミュ障と書き込みは、コミュニケーションが苦手という意味で書かれていることもあります。

このように理解すると、単に投稿者が接客を受けてコミュニケーションが苦手な人だったという意見・論評をしているにすぎないです。

「コミュニケーションが苦手」というレベルでは削除請求は難しいでしょう。

「コミュニケーション障害」という意味で書かれている場合

「コミュ障」とは、コミュニケーション障害の略として用いられる語でもあります。

コミュニケーション障害の有無は証拠で判断がしやすいです。単に意見論評ということはできません。

コミュニケーション障害の略というレベルだと、名誉毀損や名誉感情の侵害を理由に削除請求できる可能性があります。

裁判所はどのように判断するのか?

「コミュ障」というクチコミにはいくつかの読み方がありえます。

裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして解釈を行います。

それでは、実際の裁判事例をみてみましょう。
(令和5年10月12日東京地方裁判所判決を元にした事例です)

YouTube、元動画を切り抜いたうえで上手く話せていないことを「コミュ症さん」と揶揄した表現が名誉感情の侵害にあたると判断された事例

被害者の主張

本件動画は、社会通念上許される限度を超えて被害者の名誉感情を侵害するものである。

本件動画が被害者の権利を侵害したことは明らかというべきである。

サイト側の主張

「コミュ症さん」と揶揄した表現について、次の理由等から社会通念上許容される限度を超えていない。

① 本件動画についてみると、そのほとんどが、インターネットで広く公開されることを理解した上、むしろ自ら積極的に希望して出演した本件元動画と同一の内容である。

② 本件元動画に追加された「コミュ症さん」という表示がされるのは、冒頭の数秒のみでほんの一部にすぎないものである。

③ 「コミュ症さん」という表現も、本件元動画に出演時の被害者の様子(あるいはそれ以前の被害者のYouTuberとしての活動)を批判するものであり、コミュニケーションが苦手という程度の軽い意味合いを示すもので、必ずしも侮辱的な表現ではない。

裁判所の判断

被害者側とサイト側の主張を踏まえて、裁判所は以下のように判断しました。

【結論:名誉感情の侵害を認定】

  1. 本件動画における「コミュ症」という表現は、いわゆるネット用語として、他人との意思疎通を図ることや他人の気持ちを理解すること(コミュニケーション)が困難な状態を意味する。
  2. 「全然何言ってるかわからん」との表示がされたサムネイル画とも相まって、これを閲覧した一般閲覧者に対し、被害者が何らかの疾病その他の原因により、コミュニケーションが困難な状態であったとの印象を与える。
  3. 本件動画を本件サイトに投稿する行為は、社会通念上許容される範囲を超える侮辱行為である。その流通によって、被害者の人格的利益としての名誉感情が侵害されたことが明らかというべきである。

【サイト側の主張に対して】

① 切り抜き編集の動画で、冒頭に「コミュ症」との表示があること

本件動画は、本件元動画を切り抜き編集した上で、「コミュ症」などの表現が動画タイトル及び動画冒頭に付加されて投稿されている。

そして、一般に、本件サイトに投稿された動画は、そのタイトルや冒頭部分が最も閲覧者の注目を引き、閲覧者に対する訴求力を有するものである。

本件動画が、本件元動画を短時間に閲覧できるように、あえて切り抜き編集されて作成されたものであることも考慮すると、本件元動画に付加された「コミュ症」との表示がされていたのが動画のタイトルや冒頭の数秒間にすぎなかったとしても、本件動画が、本件元動画とほとんど同一内容のものなどということはできない。

② 「コミュ症」と「コミュ障」の違い

本件元動画に付加された「コミュ症」との表現が、いわゆるネット用語として、「コミュ障」と明確に区別されて用いられているとか、軽い意味合いで用いられるのがほとんどであるとまでは直ちに認め難い。

被害者が自ら進んで本件元動画に出演したものであり、本件サイトが投稿内容について一定の批評を受けることを前提とした仕様になっていることなどを踏まえても、本件動画における「コミュ症」などと揶揄する表現を甘受すべきであるということはできない。

弁護士が解説!判断のポイント

個人が侮辱表現をされたときは、名誉感情の侵害を理由に削除請求ができます。

もっとも、すべての侮辱表現が名誉感情の侵害を理由に違法となるわけではありません。社会通念上許容される限度を超えたものが違法となります。

この裁判では、コミュ障との表現が社会通念上許容される限度を超えるものかが争点となりました。

被害者は、社会通念上許容される限度を超える侮辱表現であるから違法と主張しました。

サイト側は、社会通念で許容されている限度の批評であると主張しました。理由は次のようなものです。

  1. 切り抜き動画であり元動画と同一内容であること
  2. コミュ症との表現がコミュ障に比べて軽い意味合いで使われていること

社会通念上許容される限度かは、判断基準が曖昧なため判断が難しいです。

裁判所は、切り抜き動画が元動画と同一内容ということはできず、一般の閲覧者が視聴した際に「何らかの疾病その他の原因により、コミュニケーションが困難な状態であったとの印象を与えるもの」であり、社会通念上許容される限度を超える侮辱表現であると認定しました。

この裁判例では、「コミュ障」の意味を、単にコミュニケーションが苦手という意味だけではなく、コミュニケーション障害の略という意味を前提に権利侵害を認定しているように思います。

同じ「コミュ障」という表現が使われていても、前後の文脈が異なれば、違う判断はあり得ます。

実際に、私の経験でも「コミュ障」の記載の前後の文脈によって違法かどうかの判断が分かれています。

まとめ:「コミュ障」とのクチコミは削除できる可能性あり

  • 「コミュ障」とのクチコミは削除できる可能性があります。
  • 削除できるかは文脈を踏まえて一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断します。
  • 名誉感情の侵害には、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為であることが必要です。
  • 削除できるかの判断は、過去の裁判例や経験を踏まえての相場観が重要です。この分野に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
監修者:よつば総合法律事務所 弁護士 辻悠祐
プロフィール

大阪弁護士会所属弁護士。よつば総合法律事務所大阪事務所所長。企業法務チームに所属。インターネット上の誹謗中傷の対応、企業及びクリニックの顧問業務、使用者側の労働問題などを担当している。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

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