2025年2月3日、公益社団法人日本プロサッカーリーグより「Jリーグ カスタマーハラスメントに対する基本方針」が公開されました。
誹謗中傷の問題は近年深刻化しており、対策が必要となります。
今回は、Jリーグにおけるカスタマーハラスメントに対する基本方針の内容及び誹謗中傷の法的問題点について、弁護士が解説します。
目次
1. Jリーグ カスタマーハラスメントに対する基本方針の内容
1.1 基本方針の対象者
Jリーグは、2025年2月3日にカスタマーハラスメントに対する基本方針を公開しています。そこでは次のようにカスタマーハラスメントを定義しています。
「お客様(ファン・サポーターやサービスの提供を受ける者)または第三者(取引先等を含む)からの言動・要求のうち、当該内容に妥当性を欠くもの、または妥当であっても当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであり、それによりスタッフの就業環境が害されるもの。」
つまり、カスタマーハラスメントに対する基本方針の対象者は、Jリーグのスタッフです。
1.2 対象となる行為
対象となる行為の例示として、次のような行為が挙げられています。
- 身体的、精神的な攻撃(暴行、傷害、脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)や威圧的な言動
- 過剰な要求
- 業務に支障を及ぼす行為(長時間拘束、複数回に亘る同一クレーム等)
- 業務スペースへの立ち入り・長時間の占拠
- 差別的な言動
- プライバシー侵害行為
- スタッフ個人への攻撃や要求
- スタッフの個人情報等の SNS やインターネット等への投稿(写真、音声、映像の公開)
- SNS やインターネット上での誹謗中傷
- セクシャルハラスメント
- その他違法な行為と判断されるもの 等
あくまでも上記行為は例示であり、カスタマーハラスメントを網羅したものではないです。
カスタマーハラスメントの定義からすると、以下の要件を満たすとカスタマーハラスメントであると認定される可能性があります。
- お客様または第三者からの言動・要求であること
- 言動・要求の内容が妥当性を欠く、もしくは要求実現の手段・様態として不相当であること
- それによりスタッフの就業環境が害されるもの
誹謗中傷はカスタマーハラスメントの代表的な行為の1つといえます。
2. 誹謗中傷が罪に問われる境界線
次のような投稿は、名誉毀損や侮辱罪として罪に問われるのでしょうか?
- 「〇を応援している人間は頭おかしい」
- 「〇は存在が粗大ごみ」
- 「〇は犯罪者みたいな顔」
- 「〇は無能で、バカ。頭が足りていない」
- 「〇は昔性犯罪で逮捕されたことがあります」
- 「〇のプレーは好きではない。うまいと思わない。」
2.1 名誉毀損罪とは?
刑法では、名誉毀損罪は次のように定められています。
(名誉毀損)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
名誉毀損は「事実を摘示」して誹謗中傷を行った場合に成立します。ここでいう「事実」とはある程度具体的な内容を含むものでなければならず、単なる価値判断や評価はこれに含まれません。
たとえば、「〇を応援している人間は頭おかしい」「〇は存在が粗大ごみ」「〇は犯罪者みたいな顔」「〇は無能で、バカ。頭が足りていない」という投稿は、いずれも具体的な事実を含んでいるとはいえないです。そのため、名誉毀損罪の成立までは難しいと考えます。
「〇は昔性犯罪で逮捕されたことがあります」という投稿は、性犯罪で逮捕されたという具体的な事実を含む内容なので、名誉毀損罪の成立の可能性はあります。
「〇のプレーは好きではない。うまいと思わない」という投稿は単なる評価ですので、罪に問われるような誹謗中傷ではありません。
2.2 侮辱罪とは?
刑法では、侮辱罪は次のように定められています。
(侮辱罪)
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
侮辱罪は、具体的な事実を投稿しなくても成立します。人(法人も含みます)の社会的評価を低下させる侮辱表現については侮辱罪が成立する可能性があります。
たとえば、「〇を応援している人間は頭おかしい」「〇は存在が粗大ごみ」「〇は犯罪者みたいな顔」「〇は無能で、バカ。頭が足りていない」という投稿は、具体的な事実をあげずに侮辱するものなので、侮辱罪が成立する可能性はあるといえます。
「〇は昔性犯罪で逮捕されたことがあります」という投稿は、具体的な事実をあげているので、名誉毀損罪で検討すべきと考えますが、捜査機関が具体的な事実まではないと認定した場合は侮辱罪として進められる可能性もあります。
「〇のプレーは好きではない。うまいと思わない」という投稿は単なる評価ですので、罪に問われるような誹謗中傷ではありません。
2.3 侮辱罪は厳罰化傾向
過去には、次のようなケースで侮辱罪が成立しています。
- 「○○(被害者名)は自己中でワガママキチガイ」「いや違う○○(被害者名)は変質者じゃけ!」などと掲載したもの。
- SNSの被害者に関する配信動画で「BM、ブタ」などと発言したもの。
しかも、侮辱罪は厳罰化の傾向が進んでいます。そのため、SNSでの安易なコメントは厳禁です。
3. 犯罪とするために刑事告訴が必要な理由
名誉毀損罪や侮辱罪は、刑事裁判にするために告訴が必要です。
名誉毀損罪や侮辱罪の刑事告訴は、犯人を知ってから6か月以内にする必要があります。
刑事告訴は、法律のルールでは口頭でもよいです。しかし、実際は書面での提出が必要ですので、告訴状を準備して提出しましょう。
4. 刑事告訴の流れ
4.1 投稿者の特定から起訴までの流れ
私の経験上、刑事告訴は次の流れとなるケースが多いです。担当刑事との初回面談後から起訴までに、少なくとも6か月以上はかかることが多い印象です。
4.2 刑事告訴の前に投稿者の特定が望ましい
匿名の投稿に対して投稿者を特定するには、通常は発信者情報開示の手続きなどを用います。警察がIPアドレスから投稿者を特定することもできます。
しかし、投稿者を特定して告訴状を提出したほうが、告訴状をスムーズに受理してもらえる可能性が高いです。
4.3 担当刑事と相談しながら進めるのが望ましい
告訴状を警察に持っていっても、いきなり受理してもらえることは多くはないです。
まずは、担当刑事と打合せをして、告訴状の内容を適宜修正しながら、受理段階で最終版の提出を行うことになります。
近年、名誉毀損や侮辱罪での刑事告訴は多数行われています。
スムーズに受理してもらうためには、初回の打ち合わせで、時系列で事案の概要を説明する、どの点がどのような理由で名誉毀損罪や侮辱罪にあたるのかの説明を明確に行うことが重要です。
投稿者の特定や刑事告訴は自分でするのは難しいので、弁護士に相談することをおすすめします。
5. まとめ:誹謗中傷は犯罪となる可能性があります
- Jリーグでカスタマーハラスメントに対する基本方針が作成されました。
- 誹謗中傷はカスタマーハラスメントの代表的な行為の1つです。
- 誹謗中傷は、名誉毀損や侮辱罪の成立可能性があります。
- 名誉毀損罪や侮辱罪とするためには刑事告訴が必要です。
- 投稿者の特定や刑事告訴は、弁護士に相談することをおすすめします。
誹謗中傷をされて今後の対応に困っている方はぜひ一度ご相談ください。
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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。