目次
1. 炎上の経緯
8月2日のやす子さんの「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」とのXの投稿を引用して、「お前は偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」とフワちゃんがXで投稿したことから炎上しました。
2. 「死んでくださーい」との発言は名誉毀損にあたるのか
フワちゃんの投稿の中の「死んでくださーい」との発言は名誉毀損にあたるのでしょうか?
この点について、名誉毀損とまではいえないと考えます。
名誉毀損といえるためには、一般の閲覧者を基準として社会的評価が低下したことが必要となります。
今回の投稿では、一般の閲覧者からみて、やす子さんの社会的評価は低下しないでしょう。
そのため、名誉毀損には該当しないと考えます。
しかし、プライドを傷つけられたこと理由に名誉感情侵害の主張はできる余地があります。
名誉毀損や名誉感情侵害となった場合
名誉毀損や名誉感情侵害となった場合、民事上の手続きとしては、不法行為として慰謝料など賠償金の支払い義務が発生します。
3. 「死ね」といった投稿に対して裁判所はどのように判断するのか
では、「死ね」といった投稿に対して裁判所はどのように判断するのでしょうか?
裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして解釈を行います。そして、個別具体的な事案に応じた判断をします。
ここからは、具体的な事例で見ていきたいと思います。
4. 事例1:インターネットの匿名掲示板である「5ちゃんねる」に「軍隊みたいな社訓のキチガイ会社」、「ほんと死ねよ」と投稿された事例
被害者側の主張
- 「軍隊みたいな社訓」を掲げる企業であるとの事実を前提として、「キチガイ会社」であり、また、一般人から「死ねよ」と言われるに値する会社であると論評するものである。
- 一般人から「死ね」と言われる程に社員を必要以上に強く統制する不適切な会社であるとの印象を抱かせるとともに、正常な判断ができない会社であるとの印象を抱かせるから、社会的評価を低下させる。
加害者側の主張
なし(欠席)
裁判所の判断
- 「軍隊みたいな社訓のキチガイ会社」、「ほんと死ねよ」と述べる記載があるところ、同記載は、軍事組織のように上司が部下を厳しく統制するという内容の社訓を掲げる会社であるという事実を前提として、常軌を逸した厳しい社員統制を行う「キチガイ会社」であり、一般人から「死ね」と言われるに値する会社であるとの論評を表明するものである。
- 閲読した一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、読者に対し、常軌を逸した社員統制を行う異常な会社であるとの印象を与えるものであるから、社会的評価を低下させる。
(参考:令和4年12月19日東京地方裁判所判決 )
5. 事例2:ツイッターで「ゴミ人間」、「メスイキ」、「死ねよ」と投稿された事例
被害者側の主張
「ゴミ人間」、「メスイキ」、「死ねよ」と侮辱するものであり、社会通念上許容限度を超える侮辱行為として、名誉感情を侵害する
プロバイダ側の主張
侮辱的な表現を含んではいるものの、具体的事実を摘示しておらず、社会通念上許される限度を超える侮辱行為と認められることが明らかであるとまではいえない。
裁判所の判断
「メスイキ」という文言を侮辱的表現として用いているほか、原告に対して「ゴミ人間」、「死ねよ」などと著しく不適切な人格否定表現も用いていることから、社会通念上許される限度を超える侮辱行為として、名誉感情を侵害することは明らかである。
(参考:令和3年11月9日東京地方裁判所判決)
6. 弁護士が解説!判断のポイント
事例1と事例2の結論
事例1は、「軍隊みたいな社訓のキチガイ会社」「ほんと死ねよ」という投稿に名誉毀損を認定しています。
事例2は、「ゴミ人間」「メスイキ」「死ねよ」という投稿に名誉感情侵害を認定しています。
名誉毀損と名誉感情侵害の違い
では、名誉毀損と名誉感情侵害は何が違うのでしょうか?
名誉毀損と名誉感情侵害の違いは次の2点です。
1点目は、一般の閲覧者を基準に評価の低下があるかを判断する点です。
名誉毀損は一般の閲覧者を基準に判断します。対して、名誉感情侵害は自分自身が感じている主観的な評価を基準に判断します。
2点目は、法人との関係でも権利侵害が認められるかどうかという点です。
名誉毀損は法人・個人ともに主張が可能です。対して、名誉感情侵害は個人のみ主張が可能です。法人は、主観的な評価を有していないと考えられているためです。
「死ね」という発言に対する法的評価
「死ね」という発言のみでは、一般の閲覧者を基準にして、対象者の評価が低下することはあまり多くないように思います。そのため、「死ね」という発言のみでの名誉毀損の成立はハードルが高いです。
事例1も「軍隊みたいな社訓」という投稿がなければ、名誉毀損の成立は難しかったと思います。
他方、「死ね」という発言は、人格否定表現として名誉感情侵害の可能性があります。
事例2も「ゴミ人間」、「メスイキ」、「死ねよ」という投稿に名誉感情侵害を認めています。
名誉感情の侵害が成立するかは、社会通念上許される限度を超えているかという点の判断が重要となってきます。
事例2は複数の侮辱表現を重ねているという点で社会通念上許される限度を超えているものといえます。
「死ね」という言葉単体ではなく、前後の文脈を踏まえて、権利侵害があるのかを判断することが重要です。
7. まとめ:「死ね」という投稿は、前後の文脈で権利侵害の有無が決まる
- 「死ね」という投稿のみでは名誉毀損の成立は難しいです。
- 「死ね」という投稿で名誉感情の侵害が認められる可能性があります。
- 権利侵害が認められると、慰謝料などの賠償義務が発生します。
- 権利侵害が認められるかは前後の文脈を踏まえて判断することが重要です。
芸能人や著名人がSNSを利用する際は細心の注意が必要です。
誹謗中傷をされた、または投稿が炎上して今後の対応に困ってる方はぜひ一度ご相談ください。