病院やクリニックへの悪質な誹謗中傷は削除できます。

この記事では病院やクリニックの皆様にむけて、悪質なGoogleクチコミの削除事例を誹謗中傷対策に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

目次

Q クリニックを経営しています。悪質なクチコミを発見しました。削除できますか?

相談内容

名古屋市内でクリニックを経営しています。インターネットで閲覧可能な地図サービスに次のようなクチコミが投稿されました。

  • ①「採血、検査はお金稼ぎですか…」
  • ②「結局、違うホルモン系の病気でした。危なくセロトニンを増やす薬を飲まされ本物の鬱病にされる所でした。」
  • ③「怖いです。」
  • ④「皆さん、気をつけて!」

記載内容はいずれも真実ではありません。このような書き込みがあると、新規の患者さんはもちろん、既存の患者さんまで不安にさせてしまうおそれがあります。投稿を削除できますか?

(令和元年11月29日東京地裁判決を元にしたご相談事例)

A 削除できる可能性が高いです。

弁護士の解説

診療内容や検査内容に不満を持つ患者さんが相談事例のような投稿をすることがあります。

「検査が高かった」という程度の投稿であれば、患者さん個人の意見であり、削除の対象とするのは難しいです。

しかし、間違った薬の投薬がなされそうになったという投稿は、意見の範囲を超えた事実摘示であり、病院の社会的評価に及ぼす影響が大きくなります。投稿内容が虚偽である場合は、削除できる可能性が高いです。

裁判の判決では、名誉毀損があると次のように判断しました。

名誉棄損の判断枠組み

  • 名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を指し、社会的評価を低下させる表現であれば、それが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、名誉毀損の不法行為が成立するものであるところ、当該表現が社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべき
  • 名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式が採られている場合であっても、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、当該部分の前後の文脈や公表当時に上記読者が有していた知識ないし経験等も考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を上記推論の結果として主張するものと理解されるときには、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である
社会的評価の低下について

投稿中には、①「採血、検査はお金稼ぎですか…」、②「結局、違うホルモン系の病気でした。危なくセロトニンを増やす薬を飲まされ本物の鬱病にされる所でした。」、③「怖いです。」、④「皆さん、気をつけて!」という部分がある。

このうち①の部分については、本件クリニックでは、診療報酬を得る目的で、特に必要がない採血、検査が行われているという事実を摘示したものと理解することができる。

また、②の部分については、本件クリニックにおいて、鬱病ではない患者に対して鬱病の薬であるセロトニンを増やす薬が処方されたという事実を摘示したものと理解することができる。

さらに、③及び④の部分については、②の事実に基づき、本件クリニックについての意見ないし論評を表明するもので、本件クリニックに対する不安感を閲覧者に与え、その医学的信用を損なう表現に当たるということができる。

違法性阻却事由の不存在について

証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記の摘示事実については、真実ではないことが認められるから、本件投稿について違法性阻却事由をうかがわせる事情はないというべきである。

判決で参考になる点
①名誉毀損の判断枠組みをわかりやすく説明していること。

社会的評価を低下させる投稿は名誉毀損の成立可能性があります。社会的評価の低下があるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断されます。

事実摘示があるかは、証拠等をもってその存否を決することが可能かどうかを基準に判断されることになります。この判決では、これらの点をわかりやすく説明しています。

②事実を摘示しているかどうかの判断

「採血、検査はお金稼ぎですか…」という部分は、患者さんの意見とも考えられます。しかし、判決では、一般の読者の普通の注意・読み方を基準として、事実摘示であると判断している点も注目です。

結論:違法な口コミとして削除可能

そのため、次のような投稿は削除できる可能性が高いです。

  • ①「採血、検査はお金稼ぎですか…」
  • ②「結局、違うホルモン系の病気でした。危なくセロトニンを増やす薬を飲まされ本物の鬱病にされる所でした。」
  • ③「怖いです。」
  • ④「皆さん、気をつけて!」

Q 「治療したふり」「ヤブの上に詐欺」といった悪質なGoogleマップのクチコミを発見しました。削除できますか?

相談内容

私は、クリニックを経営する医師です。

Googleマップのクチコミに次のような投稿がされました。

  • ①「直して欲しいとおねがいした場所が治療したふりだけをされて、全く変わってなかった」
  • ②「ヤブの上に詐欺」

このような投稿があると、病院の評価に悪影響ですので、削除したいです。

(令和 2年12月 4日東京地方裁判所判決を元にしたご相談事例)

A 削除できる可能性が高いです。

弁護士の解説

Googleマップのクチコミは、新規の患者さんが参考にすることが多いので非常に重要です。

裁判の判決では、名誉毀損があると次のように判断しました。

社会的評価の低下について

本件投稿は、発信者が、本件クリニックを受診して治療を依頼したが、治療したふりをされただけで、治療を依頼した部分に全く変化はなく、また、何の説明も受けなかったとの事実を摘示し、また、本件クリニックが、いわゆるヤブ医者であり、本件クリニックの行為が詐欺にも該当するとの意見を表明するものである。

そうすると、本件投稿は、一般の閲覧者に対し、本件クリニックでは、適切な治療が行われていないのに、適切な治療が行われたかのように装っている上、患者に対する治療に関する説明が行われていないという印象を与えるものである。

したがって、本件投稿は、医師として本件クリニックを経営する原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害する内容といえる。

違法性阻却事由の不存在について

証拠によれば、本件ログインに係る契約者は、被告からの意見照会に対する回答において、本件クリニックにおいて受けた治療に関する不満を述べていることが認められるものの、本件クリニックにおいて何らかの治療がされたこと自体までは否定しておらず、証拠によれば、原告が、患者に対し、治療をしたふりをしたとか、診断や治療の内容を説明しなかったという事実はなかったと認められる。

したがって、本件投稿の違法性を阻却させる事由の存在をうかがわせる事情も存在しない。

判決では、次の投稿のうち、①は事実摘示、②は意見の表明であると認定しました。

  • ①「直して欲しいとおねがいした場所が治療したふりだけをされて、全く変わってなかった」
  • ②「ヤブの上に詐欺」

それぞれを別々に考えるのではなく、①を前提事実、②を前提事実に基づく意見として名誉毀損の成立を認めました。

結論:違法な口コミとして削除可能

そのため、「治療したふりだけ」「ヤブの上に詐欺」といった投稿は削除できる可能性が高いといえます。


Q 「クチコミをでっち上げている」などの悪質なGoogleマップのクチコミを発見しました。削除できますか?

相談内容

複数の医院を開設している医療法人ですが、Googleマップのクチコミに次のような投稿がされていることを発見しました。当院の信用を低下させるような投稿であるため、削除したいです。削除できますか?

  • ①クリニックが精神科・心療内科であるにもかかわらず待合室に座れないほど詰め込まれていること
  • ②予約を取っているのに初診は2時間待たされたこと
  • ③これまでに本件クリニックの医師3名の診察を受けた経験があるがいずれも単なる作業であったこと
  • ④平日、休日を問わず、早いと3分ほどの診療時間であり、これが規定に反するものであること
  • ⑤患者の状況を把握しようとせず、薬と休養を勧めるのみであること、本件クリニックが評価を上げるためにクチコミをでっち上げていること
  • ⑥心が疲れている者には向かない病院である
  • ⑦捌けない人数の患者を取っていることがおかしい
  • ⑧信用することができない病院である

(令和 3年10月28日東京地方裁判所判決を元にしたご相談事例)

A 削除できる可能性が高いです。

弁護士の解説

事実と意見の違い

投稿を削除できるかどうかは、事実か意見かという点が重要です。意見のみだと削除できる確率は低いです。

もっとも、事実か意見かは微妙な判断となることが多いです。裁判の判決では、各投稿内容について次のように判断しました。

事実とした投稿
  • ①クリニックが精神科・心療内科であるにもかかわらず待合室に座れないほど詰め込まれていること
  • ②予約を取っているのに初診は2時間待たされたこと
  • ③これまでに本件クリニックの医師3名の診察を受けた経験があるがいずれも単なる作業であったこと
  • ④平日、休日を問わず、早いと3分ほどの診療時間であり、これが規定に反するものであること
  • ⑤患者の状況を把握しようとせず、薬と休養を勧めるのみであること、本件クリニックが評価を上げるためにクチコミをでっち上げていること
意見とした投稿
  • ⑥心が疲れている者には向かない病院である
  • ⑦捌けない人数の患者を取っていることがおかしい
  • ⑧信用することができない病院である
社会的評価の低下について

「これらの事実の摘示及び意見ないし論評の表明は、原告が診療という名に値しない対応を患者に対して行っているとの印象を与えるものであり、医療法人である原告の社会的評価を著しく低下させるものであるということができる。」と裁判所は判断しました。

違法性阻却事由があるか否か(真実かどうか)について

「証拠によれば、原告は、患者に対して必要な問診や検査を実施し、患者の状況を把握して診療に当たっていると認めることができ、原告が評価を上げるためにクチコミをでっち上げるなどの行為をしたことはないと認められるから、本件クリニックの診療が短時間で終了する作業に過ぎず、本件クリニックが評価のよいクチコミをでっち上げているとの上記摘示事実は虚偽であると認められる。」と裁判所は判断しました。

結論:違法な口コミとして削除可能

単なる意見の表明のみでは、事実の摘示がないとして削除が難しいケースが多いです。

しかし、前提事実が存在する意見は、前提事実が虚偽であれば投稿の削除は可能です。どこまでを事実の摘示と評価するのかは専門的な判断が必要になってきます。

過去の判決に照らすと、次のような投稿は削除できる可能性が高いです。

  • ①クリニックが精神科・心療内科であるにもかかわらず待合室に座れないほど詰め込まれていること
  • ②予約を取っているのに初診は2時間待たされたこと
  • ③これまでに本件クリニックの医師3名の診察を受けた経験があるがいずれも単なる作業であったこと
  • ④平日、休日を問わず、早いと3分ほどの診療時間であり、これが規定に反するものであること
  • ⑤患者の状況を把握しようとせず、薬と休養を勧めるのみであること、本件クリニックが評価を上げるためにクチコミをでっち上げていること
  • ⑥心が疲れている者には向かない病院である
  • ⑦捌けない人数の患者を取っていることがおかしい
  • ⑧信用することができない病院である

悪質なクチコミを放置してはいけない理由

Googleマップのクチコミは、次のような特徴があります。

  • 患者さんが閲覧する可能性が高い
  • 応募者も閲覧している可能性がある
  • 投稿内容は半永久的に残り続ける

そのため、悪質なクチコミを放置してはいけません。

悪質なクチコミはなるべく早めに削除の対応をしましょう。

まとめ:病院やクリニックへの誹謗中傷の削除事例

投稿内容を名誉毀損で削除できるかは、次のような要素が重要です。

  • ①投稿内容が事実を摘示していること
  • ②投稿内容が社会的評価を低下させること
  • ③違法性阻却事由の不存在(特に内容が虚偽であること)

削除できるかは詳しい弁護士でないと判断が難しいです。悪質なクチコミでお困りのときは、まずはご相談ください。

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